“対話する看護”の中で見えてきた新しい景色
2025/11/28
「訪問看護師になってから、テレビの観るチャンネルが変わった」
これは、ある日ふと気づいた自分自身の変化です。
医療系の番組だけでなく、NHKの相撲中継や高校野球の試合、
さらには健康情報番組までチェックするようになりました。
なぜなら、それが「利用者様と話をするために必要な情報」だからです。
病棟勤務時代は、疾患や処置が中心。
日々の業務の中で、利用者様の生活背景や趣味嗜好に触れる時間は限られていました。
しかし訪問看護は違います。
ご自宅という“生活の場”に入るからこそ、
そこにいるのは「病気を持った人」ではなく、「その人自身」。
だからこそ、対話のきっかけを探し、自分の視野を広げる必要が出てきたのです。
「病気」だけでなく「人」と向き合うこと
訪問看護では、ただ体調のチェックや処置をするだけでは十分とは言えません。
「今日はどんなテレビを見ましたか?」
「お庭のお花咲きましたね、なんという名前なんですか?」
そんな何気ない会話が、利用者様との信頼関係を築く第一歩になります。
ある時、相撲好きの利用者様が
「今日は〇〇が勝ったよ!」と笑顔で話しかけてくださいました。
その取り組みを私も見ていたことで、会話が弾みぐっと距離が縮まりました。
これをきっかけに、
私は利用者様がよく観る番組や関心のあるテーマを積極的にチェックするようになりました。
利用者様と向き合うために始めた情報収集や会話の工夫は、
結果的に自分自身の視野を広げるきっかけにもなりました。
自分が知らなかった世界、興味を持たなかったことにも触れ、
人生の先輩たちから多くのことを学ばせてもらっています。
季節行事や風習に気づけるように
季節を感じる行事にも敏感になりました。
たとえば冬至には柚子湯、正月には七草粥といった、昔ながらの健康習慣。
それまでは意識することもなかったこれらの風習が、
訪問看護の現場では会話の重要なネタになることに気づいたのです。
ある利用者様は「冬至だから、今日のお風呂は柚子湯にしてね」とおっしゃいました。
その時私は、柚子の効能や入浴効果を調べ、次回の訪問時に豆知識としてお伝えしました。
すると、「そんなことまで調べてくれたの?」と感動していただけました。
こうした日常の一コマが、
医療ではカバーしきれない“心の健康”にもつながっていることを実感しています。
そして、こうした風習には健康や無病息災を願う意味があることを知り、
自分の子どもにも伝えてあげたいと思うようになりました。
核家族で育つ子どもたちにとって、
祖父母世代の知恵や感覚に触れる機会は少なくなっていますが、
訪問看護を通して私は“身近におばあちゃん・おじいちゃんがいる”ような感覚を得ています。
そんな温かさを家庭にも持ち帰れるようになったのです。
自分なりの「健康法」への関心
利用者様との対話の中では、いわゆる“民間療法”の話もよく出てきます。
たとえば、生姜湯で体を温める、小豆を温めて腰や目にのせるといった昔ながらの知恵。
最初は「ほんとに効くのかな?」と半信半疑でしたが、
自分でも試してみるうちに、なんだか元気になった気がする。
そんな経験を重ねるうちに、私自身、いわば“健康オタク”のようになってきました。
もちろん、科学的根拠がはっきりしないものもありますが、
利用者様の中には「この方法が自分には合っている」と信じて続けている方も多いです。
大切なのは、否定するのではなく「一緒に考える姿勢」。
利用者様の信じる健康法に敬意を払うことも、寄り添いの一部なのだと思います。
また、利用者様が無理なく続けられる簡単な体操やストレッチを、
自分自身も日常生活に取り入れるようになりました。
「まずは自分で試してみる」ことで、
三日坊主になりがちな自分にもよいきっかけになりましたし、
「どうすれば続けられるか」という視点でアドバイスできるようになりました。
押しつけではなく、一緒にやってみる、そんな姿勢を大事にしています。
手作りの工夫で、気持ちを伝える
訪問看護では、既製品では対応しきれないことも多くあります。
たとえば、薬の管理が難しい利用者様に対して、
薬カレンダーや薬BOXを自作することもあります。
市販の薬カレンダーではBOXが小さすぎたり、
使い方が複雑だったりして使いこなせないことがあります。
そんな時には、色画用紙やチャック付き袋を使って、簡単で見やすいカレンダーを手作り。
名前を書いたり、シールで曜日を分かりやすくしたりと、
ちょっとした工夫で使いやすさが格段に上がります。
目の前にないとつい飲み忘れてしまう利用者様には、
食卓テーブルに設置できる卓上薬カレンダーを作りました。
また、利用者様のお誕生日には、手作りのカードでお祝いすることもあります。
高価なものではないけれど、ちょっとしたメッセージで
「覚えてくれてたんだね」と涙ぐまれることも。
お金をかけずとも、気持ちは伝わる。こうした“ちょっとしたものづくり”は、
医療者としての自分に「人としての温かさ」を思い出させてくれます。
食事の支援も、看護師の役割に
病院では栄養士さんが担当していた栄養面のサポートも、
在宅では看護師が担うことが多くなります。
訪問看護を始めてから、私は学生時代ぶりに食品成分管理表を開き、勉強をやり直しました。
糖尿病、高血圧、心臓病、腎臓病など、利用者様ごとに食事の注意点は異なります。
大事なのは、ただ知識を伝えるのではなく、
「どうすれば日常生活の中で無理なく続けられるか」を一緒に考えること。
たとえば、好きな食材を生かした減塩レシピや、手軽にカロリーを補える間食の工夫など、
小さなことでも利用者様に合わせたアドバイスを心がけています。
看護師として、人として成長できる現場
訪問看護師になってから、自分の生活の中にも変化が生まれました。
テレビの趣味も、食生活も、季節行事への関心も。
すべては「利用者様とちゃんと向き合いたい」という気持ちから始まったことです。
専門性を磨くことはもちろん大切ですが、同じくらい大切なのは「人に寄り添う力」。
訪問看護の現場では、日々の小さな気づきと工夫が、大きな信頼と安心につながっていきます。
訪問先でお会いする多くの利用者様は、私にとって親や祖父母の世代。
時には“孫のように”接してくださる方もいて、教えていただくことの方が多いくらいです。
看護師という立場でありながら、人として成長できる現場。
それが、私にとっての訪問看護です。
これからも私は、自分自身の視野を広げながら、
利用者様の生活に寄り添う看護を続けていきたいと思います。
バナナの葉訪問看護ステーションでは、
千葉県の市原市・木更津市・袖ケ浦を中心に訪問を行っています。
「これって相談してもいいのかな?」と思うような小さなお困りごとでも、
どうぞ遠慮なくお話しください。
病気のことだけでなく、日々の暮らしの中で感じる不安や悩みにも、
そっと寄り添える存在でありたいと願っています。
また、利用者様やご家族に寄り添うケアを一緒に届けてくださる仲間も、随時募集しています。
訪問看護が初めての方でも、ブランクのある方でも大歓迎です。
私たちと一緒に、地域の“暮らし”を支えるチームの一員になりませんか?


