薬だけじゃない訪問看護の温もり
2025/12/15
『お薬をしっかり飲んでいるのに、あまり効いていない気がするの』
利用者様のほとんどが、血圧や痛み止めなど、何かしらのお薬を服用しています。
なんだか元気が出ない。笑顔が少ない。
そんなときはそっと手を添えて、
『今日はどうでしたか?』と声をかけました。
すると、利用者様の表情がふっと緩んだのです。
こんな経験、皆さんもありませんか?
医療者として「薬を出して、バイタルを整えて…」という流れになることが多い。
でも、在宅で暮らす利用者様にとっては、
薬だけで心も体も満たされるわけではありません。
むしろ「誰かが来てくれた。話を聞いてくれた」という
“存在そのもの”が効く瞬間があるのです。
今回は、医療行為ではない“もうひとつのケア”
薬では処方できない温もりや寄り添いについてお伝えしたいと思います。
看護師として働く方にも、利用者様やそのご家族にも、
「あ、こういうケアもあるんだ」と感じていただけたら嬉しいです。
「看護」と「治療」の違いって?
医療現場では「治療=病気を治す・症状を改善する」というイメージが強いです。
例えば
・高血圧なら降圧薬
・痛みには鎮痛薬
・眠れない時は睡眠導入剤
一方で「看護」は、利用者様の暮らしやその人らしさ、心の状態にも光をあてます。
薬や機械だけでは捉えきれない暮らしの質(QOL)を支えるケアです。
特に在宅での療養やターミナルケアの場面では、
利用者様が
「ここで暮らしたい」
「最後まで安心して過ごしたい」という願いを持っておられ、
その背景には体の状態だけでなく、心の安らぎが深く影響しています。
実際、訪問看護では
「医療処置・服薬管理」+「心理的・社会的なサポート」が重要です。
医療行為以外にも、“寄り添い”や“共感”も立派なケア
では、具体的にどういう“お薬じゃないケア”があるのでしょう?
例えば
・訪問時に看護師が利用者様の手を軽く握る。
・「今日はなんだか笑っていらっしゃいますね」などと声をかける。
・そばに座ってテレビを一緒に見る、写真を眺める、昔話を聞く。
こうした動作には、
数値では測れない「安心」「つながり」「安心して過ごせる時間」を作る力があります。
また、ご家族との会話を通じて、
「このまま家で過ごしたい」という思いを共有し、
ケアの方向を利用者様・ご家族・看護師で一緒に考える。
そういった“傾聴・対話”も、訪問看護の大切な役割です。
1回の訪問に“薬以外の癒し”がたくさん詰まっている
訪問看護ステーションが利用者様宅を訪ねるとき、
そこには医療処置だけでなく、暮らしの場・家族の場が広がっています。
だからこそ、
「どう過ごしているか」
「この家で安心しているか」
「孤立していないか」という視点も必要です。
例えば認知症の利用者様の場合、
単に薬を正しく飲むことを確認するだけでなく、
「今日は何をして過ごされましたか?」
「お気に入りのテレビ番組ありましたか?」といった会話が、
安心感や居場所感につながります。
終末期の利用者様では、
「最期を家で」という願いを持たれていることが多く、
そのときに残された時間を「ゆっくり過ごせるか」「家族と穏やかに話せるか」が、
薬や処置だけでは叶えきれない部分となります。
「ただそばにいる」「話を聞く」ことが、実は重要なケアになるのです。
「お薬飲みましたか?」という問いかけを超えて、
「今日はどうでしたか?」「何かお困りではありませんか?」という声かけが、
その日の表情を変えることもあります。
そういった“見えない力”が、訪問看護の現場には詰まっています。
現場の工夫や事例紹介
①「手を握る・そっと触れる」
ある利用者様は、薬をきちんと飲まれていましたが、
「やる気が出ない」
「毎日同じことの繰り返しでつまらない」と感じておられました。
私は訪問時、「今日は庭の花、どうですか?」と尋ね、
花の写真を一緒に見ながら手をおそるおそる添えました。
そのとき、利用者様の目に少し光が戻ったのです。
それ以来、
週1回は「庭の写真を見ましょう」
「今日は何か面白いことありましたか?」という時間を作るようにしました。
すると、「水やりしようかな」という言葉が出てきたのです。
手を添えるという行為が、体だけでなく心に小さな変化を呼びました。
②「話を聞く・そのまま受け止める」
終末期の利用者様とご家族のケアの場面では、処置は淡々と行われていましたが、
ある日その方が「もう家での時間が少ない気がする」とポツリと言われました。
「もしよければ、ここで昔のお話を聞かせてくださいませんか?」
と尋ねたところ、
若い頃の夢、子ども時代の遊び、ご主人との思い出を静かに語ってくださり、
涙をこぼされました。
私はただその話を聞き、ご家族にもその時間を共有していただきました。
数日後、奥様が
「看護師さんが来てくれると安心して夜が眠れます」と言ってくださいました。
ケアの根底には「この人の人生を尊重します」という姿勢があるのだと、
改めて感じました。
③「笑いを共有する・小さなリハビリも交える」
認知症の利用者様には、リハビリとして
「この本を読んで、一緒に体を少しだけ動かしましょう」と提案しました。
体を軽く伸ばす体操をした後、
「昔、お祭りで踊ったことありますか?」と尋ねると、
「ああ、踊ったわねぇ」と笑顔になりました。
その後、「じゃあ今日は“ヨガのポーズ”を一つだけやりましょう」と、
軽いキッズヨガ風の体操を取り入れたところ、
「体が少し軽くなったわ」とのお言葉をいただきました。
薬ではコントロールしきれない気持ちや動く実感を、
この時間が支えてくれました。
新人看護師・未経験者に向けたヒント
・初めての訪問では、まず
「おじゃまします。今日はどう過ごされましたか?」と笑顔で声かけを。
医療的項目よりも、暮らしの話題を先にすることで
信頼関係が築きやすくなります。
・処置の合間に、
利用者様の「好きなこと・これまでの暮らし」を聞いてみましょう。
「そういえば昔の趣味は何でしたか?」という一言が、
表情を変えるきっかけになります。
・予定通りに進まないこともあります(体調が優れない、話が出ないなど)。
そんなときこそ、
「今日は無理しなくていいですよ。少しゆっくりお話でもしましょうか」と
寄り添う姿勢が大事です。
・家族ケアも忘れずに。
ご家族が「今日はどうでしたか?」と聞かれたとき、
「家でこんなことがありまして…」と話せる場をつくることで、
ご家族の安心につながります。
今日からできること
訪問看護という場では、薬の管理や医療処置はもちろん不可欠ですが、
それだけが“効くケア”ではありません。
手を当てる、声をかける、そばにいる。
こうした“見えないケア”が、
利用者様とそのご家族の心を支え、暮らしを豊かにしていきます。
看護師の皆さんへ
「今日も処置を無事に終えた」と思った後に、少しだけ立ち止まって、
「利用者様の今日の笑顔はどうだったか?」と自分に問いかけてみてください。
その一瞬が、利用者様の“安心できる時間”を作る扉になるかもしれません。
利用者様・ご家族へ
「看護師さんが来る日は何を話そうかな?」と思っていただくことで、
訪問時間が「診療」ではなく「暮らしのひととき」になります。
どんな小さな話題でも、どうぞ遠慮なくお聞かせください。
“お薬の袋”に入っていなくても、効くケアがあります。
見ることはできなくても、感じることのできる力があります。
私たちは、その“もうひとつのケア”を大切に、
皆様の暮らしに寄り添いたいと思っています。
バナナの葉訪問看護ステーションでは、
千葉県の市原市・木更津市・袖ケ浦を中心に訪問を行っています。
「これって相談してもいいのかな?」と思うような小さなお困りごとでも、
どうぞ遠慮なくお話しください。
病気のことだけなく、日々の暮らしの中で感じる不安や悩みにも、
そっと寄り添える存在でありたいと願っています。
利用者様やご家族に寄り添うケアを一緒に届けてくださる仲間も随時募集しています。
訪問看護が初めての方でも、ブランクのある方でも大歓迎です。
私たちと一緒に、地域の“暮らし”を支えるチームの一員になりませんか?


